うつくしい霧

勢いで、DEMETERのコロンの、5mlサイズを10本買った。
だって、好きにならずにいられるだろうか。こんなの。
シングルノートのオーデコロンで、そのままつけるのもいいけど、
手持ちの香水やDEMETERのもの同士を重ねたりしていくらでも遊べるらしい。
そんなの、ときめかずにいられるだろうか。

香水を置いている段はもういっぱい。
いつか母親が買い与えてくれたオードトワレが香水瓶に半分以上残っていて、
もう古い香水だし、あと1年余りで20代を終えようとしている自分には少し若いから、
ぜいたくにピローミストにしたりするけど、まだずいぶん残っている。
名前を言うのがちょっと恥ずかしいくらいメジャーなところのサブブランド。
ゼロ年代終わりの女の子っぽい、懐かしくていとおしい、フルーティフローラルの香り。

少し前のクリスマスに連れ合いと互いの欲しいものを贈り合ったとき
二人で選んだJ-scentの薄荷が最近は気に入っていて、春夏の仕事に行く日につけることが多い。
つけたばかりは薄荷の香りが強く清涼感が強いけれど、ミドルノートの女っぽいフローラルが
きちんと奥に控えている感じが好きだ。

一時期VAPEを検討した理由が「煙草じゃなく、何かいい香りを吸いたい」だったので
そもそもからして香りものをどっぷり好きになってしまう素質はあったんだけど
ただ、自分が身にまとう香水は、少しコンプレックス込みの好きかな、という気がして。
だって自分の体が美しかったことがないのも、
いい匂いなんかするはずがないのもずっとコンプレックスで。
でもその不足を補おうと思う自分を恥じるのはやめようと、最近は思っている。

どんな些細なことでもいいけれど、
不足していたなにかをちゃんと自分で手に入れた人は、誰もかれもかっこよく見えて。
ありとあらゆるきれいごとの中で、努力だけは最後まで信じていたい、と思う。
どんな些細なことでも、自分のために、自分がなりたいものになろうとするのって、
子どもよりもむしろ大人の特権であるような気がして。

自分を好きになる努力とか、そういうもののひとつとして
戯れに買ったカラコンも、けっこう面白い経験だった。
好き勝手化粧して、好きな香水をつけてきりっと歩く日も
すっぴんに普段着で気楽にだらだら歩く日も
変わらず楽しく生きようとか、自分を好きでいようとか、
そういう些細なことを考えながら生きているのが、いま、けっこう幸せだ。

身近にも、ニュースにも、怒りや不安を覚える出来事はいっぱいあるし、
ありとあらゆる欠如や悲しみを、ただの一つだって忘れてやるものか、と思う。
人生が順風満帆だったことなんてないから、これから先もどうなるか分からない。

だけど、これからも、どんなに辛い日も、今日だけはなるべくいい日であれと、
うつくしい霧を腰に吹きつけ、願いながら生きていくのだと思う。