雨の特異日

ろくがつにじゅうはちにちは 雨の特異日 なのです
と、
嘘のような夢のような言葉。
滞りなく流れるFMラジオの当たり障りのないことばの清流の中から、こぼれ落ちた、青いキャンディのようなその言葉を、
わたしは口の中で転がして味わって、
ベッドの上で天井を見つめてみる。

天井越しに見えるのは、
くちなしの白い花を枯らしてゆく
酸性の雨滴。

交叉点に充ち満ちたあの危うくはかない白い花の香りは、
少女だった頃のつま先立ちの記憶を呼んで、
しかしはたして、
わたしに少女だった頃があっただろうか。

14のおわりにおとしてしまった純潔と、
16のはじめになくしてしまった潔白と。
女という性がわたしの心臓に肺に脳髄にじわじわと黒く根を張るように育っていると自覚してしまったあのとき、
きっとわたし、
疾うに少女ではなかった。

(それでも、あのひとよりもうつくしい名前を持つ男の人をわたしは知らない)

効きすぎたエアコンを消して、
わたしは服を脱ぐ、
ありふれた香水を足首にまとわせる。
嫉妬の名を持つその香りは、
かあさんがつかっていた武器。
醜いわたしには不似合いな、
だけど、
その香水、似合うよと、
一言嘘をついてくだすったら、
わたしはほかになんにもいらないの。

花腐す雨滴、
少女の笑い声のようにころころと耳障りに、窓に張り付いて転がっている。

少女でいられなかった私を弔うように、
ろくがつにじゅうはちにちは 雨の特異日 。